人材が定着しない。育たない。

この悩みは簡単かつ完全に解決できるものではありません。なぜなら多くの企業が頭を抱えている問題だからです。ですが、人材を定着させ、会社の戦力として成長させるための施策を考え、打つことはできます。

そのやり方によっては、すぐに会社を辞めてしまうようにもなりますし、むしろ大物に化ける可能性すらあるかもしれません。

特に新入社員の育成は重要でしょう。なぜなら、飛行機が1度ズレたまま飛行すると目的地にたどり着けないように、新入社員教育も、はじめの一歩がズレてしまうと結果も大きく変わってしまうからです。

そして今回は私が新入社員育成をするにあたり「始めがかなり重要だな」と感じさせられた場面がありましたので、シェアしたいと思います。

なんとなくで新入社員研修はできない

今は4月の初旬。私としては久しぶりに新入社員の社内研修にガッツリ関わらせてもらっています。

何年ぶりでしょうか。かなり気合いを入れ、高校を卒業したばかりの10代の若者の指導にあたっております。

というのも、今までは社内の管理職がほとんど新入社員の研修を担当していました。なぜなら、この会社は建設現場に関わる安全教育や電気に関わる専門的な知識が必要で、それを教え込む必要があったからです。

ですが、今年は多忙過ぎて「研修できない!」というコールがあり、新入社員研修が開催できない!という事態になりかけました。

とはいえ、新入社員をいきなり現場に放り込み、怪我をさせるわけにはいかない!という懸念が生じます。また経営者からすれば「管理職の人材育成のやり方が下手クソ」という不満もあったせいで、再度私に白羽の矢が立ったのです。

経営陣とのミーティングで決まった「新入社員を育成させるコンセプト」としては次の5つです。

  1. 第二種電気工事士の資格を取得できるベースをつくってほしい。
  2. 現場での安全を第一に教育してほしい。
  3. 「仕事とは何か?」を叩き込んでほしい。
  4. CADの基本的な操作。
  5. 自立心を醸成してほしいetc

ミッションとしては、これらを2週間で完結させるという、結構なボリューム内容でした。

もちろんこれはなんとなくでは出来ません。かなり準備に時間を割きカリキュラムを組みました。(なんせ第二種電気工事士は人に教えるレベルにありませんからね。本を買い漁り徹夜で読み返しました。)

結論から言うと、上記5つの土台は教え込むことができたんじゃないかと思います。

本当のアホは誰?

あいつアホやろ!!

これは新入社員の研修中に、その風景を見ていた従業員が思わず発した言葉です。

というのも、新入社員の1人がめっきり計算ができず、数学が苦手だったのです。

特に分数の計算にはめっきり弱く、

「1÷2=」の答えは?と聞くと、「2です!!」と答えるのです。

私も初めはそれを聞いて驚いてしまったのですが、それよりその状況を見ていた従業員が「お前はアホだ!この仕事に向いてないんちゃうか?」とレッテルを貼ってしまったのです。

さて、これを聞いて、あなたはどう思いますか?あなたもそう感じたでしょうか?

たしかに「今まで学校で何してきたんや?」と思うかもしれませんね。特に電気工事に関わる仕事だけでなく、業務には計算がつきものです。「これはかなり致命的!」とまで思うかもわかりません。

ですが私は「とんでもない!!」と思いました。むしろ感心したのです。なぜなら「それが彼の取り柄」だと感じたからです。そして彼には私には無い、独自の回路が頭の中にあると感じたからです。

人材育成で必ず見るべき視点とは

しかし彼は、従業員に言われたその言葉をかなり気にしていました。そして、他の新入社員と比べどんどん後れをとってしまう自分に自信をなくし、私にこう質問してきました。

「やっぱり僕はこの仕事に向いていないのでしょうか…」と。

そんな彼の落ち込む姿を見て悲しくなってきましたし、うわべだけで「アホだ」と判断する人たちに憤りもおぼえました。

でも最初の指導者が私で良かった(笑)。

なぜなら私は彼にこう言ったからです。それは、、

「誰にでも得意不得意はある。だから気にすることはない。」と。

なぜなら、彼には絶対に何かしらの取り柄があり、それが必ず業務に活かせるだろうと思っていたからです。

「知ってるか?アホやと言うヤツこそアホなんやで。」

苦手なことを得意にはならない。だったら今、君が得意なことを伸ばしていこう!君には長所がたくさんあるよ

私は強く彼にそう伝え、彼はホッとしていました。

彼には極端に苦手な部分がある一方、ズバぬけてそうな得意な部分があると私は見ていました。

たとえば人柄。彼の人懐っこい性格は他の新入社員、ひょっとしたらベテラン従業員でも絶対に真似できない長所かもしれません。「コイツ放っておけんヤツやな!」と思わせる人懐っこさは、取引先からきっと可愛がられるでしょう。

他にも、やさしい一面があったり、製図作業が得意だったり、動きが機敏であったり…と、数学という超苦手な面を補う部分は多々あったのです。

最短で新入社員を成長させていく秘訣

人間誰でも、人の欠点を見てしまうと、そればかりが気になり出します。そしてそれを矯正するように仕向けてしまいます。

実際、今まで社内では「オマエのここがダメだ!直した方がいい。」「いい加減なおせ!」と管理職が若手人材に対して言い聞かせていました。

しかしそれは、実は人材の可能性の芽をつぶしてしまっている行為だったかもしれません。欠点を矯正することが逆に方向性を間違わせることになっているかもしれません。

またひょっとしたら、その欠点が気に入らずイライラしてしまっている自分自身のエゴで、自分がイライラしないよう、その若手人材を強制させてしまっていたかもしれません。

もちろん、社会人として最低限必要な要素はあります。ですがそうではなく、たとえば今回の私が研修で実践したように、短所に目を向けるのではなく、長所にフォーカスをあててみてはいかがでしょうか?

短所というものは、本人が苦手だからこそ短所であり、矯正できれば既に矯正できているはずです。

それより長所を伸ばせば長所だったことが好きになり、好きが得意分野に発展し、得意分野がプロになるかもしれない。そして好きなことであれば夢中になる。

それができれば、人の欠点や短所を矯正させるよりも、最短で会社の戦力となるとは思いませんか?

優秀な人材が確保できない原因、それは…

中小零細企業の経営者や、人材育成に関わる従業員がよく口にしている言葉があります。それは「もっとマシな人材はおらんのか?」です。

それはまるで、輝きを放ったダイヤモンドが向こうからやってくるのを待っているかのようです。

はっきり申し上げましょう。そのようなことを口にしている限り、マシな人材はあなたの会社にやってくることはありません。

というより、優秀な人材になる素質のある人材を、そうとは見抜けず、むしろダメにしてしまっている可能性が高いということです。

人材育成のスキルを上げようと努力することもなく、良い面を見ずに欠点だけを見て「アホなやつ」とレッテルを貼ってしまい、新入社員の自信をなくさせてしまったように…です。

我々、中小零細企業が優秀な人材を求め、求人活動をする場合、輝きを放ったダイヤモンドを見つけるより、ダイヤモンドの原石を見つけるほうが早いです。

ダイヤモンドの原石に磨きをかけ、輝きを放ったダイヤモンドにしていく。その方が優秀な人材を確保し続ける面では一番近道ではないかと私は考えています。

なぜなら、私が実際そうやってきたからです。無論、輝きを放つダイヤモンドは大企業がかっさらっていきます。

ですが、そのダイヤモンドの原石を獲得しても、磨く努力をすることもなく、磨き続けることもなく「やっぱりコレはただの石ころだな」と勝手に判断し放置してしまう会社がいかに多いことかに驚かされます。

ダイヤモンドの原石に磨きをかけるには、それなりの努力は必要でしょう。今までのやり方では通用しないということもおわかりかと思います。しかし、ちょっと視点を変えて実行していくだけで、輝きが見えてくるものです。

フォーカスとアプローチを変えただけで、新入社員の目の色というか、モチベショーンが変わっていく。今回の新入社員研修を通じ、私なりに通じて強く感じました。

人材を育成するという意義

今回の主人公となった彼は、数学ができないだけでなく、「理解力もない相当なアホだ!」とも言われていました。

なぜなら、提出すべき必要書類が揃えられず、何回も書き直しや提出のし直しをさせられていたからです。

でも実際、彼のそばについて見ていると、会社側の説明力不足だということもわかりました。聞いたこともない書類名、複雑な手続き、高校を卒業したての若者にはチンプンカンプンな内容だったのです。

私たちは理解できていることが当たり前でも、相手にとっては理解不能だということが多々あります。それはまるでその人にしかわからない専門用語を話されているようなものです。

自分で調べて覚えろ!そういうスタンスもあるかもしれません。ですが、相手が理解できるように噛み砕いて教えてあげることも我々の役目だと思います。

わかりやすく説明しようという気持ちを持つことで、相手の喰い付きというか、理解しよう!という気持ちも伝わってくるからです。

私は今回、新入社員の研修を通じて「人材を育成することの意義」について、改めて大きな気づきを得ることができました。

詳しくは別の機会でお話しできればと思いますが、1つ言えることは、この研修を通じて、会社の戦力として成長してくれるだけでなく、立派な社会人として成長してくれるキッカケになってくれたのなら、こんなに嬉しいことはないということです。

たとえもし、この会社を去るようなことがあっても「あなたと出会えて本当に良かった。あなたに教えられて本当によかった」と思ってもらえるように人材育成をしていく。

人材育成とは、会社のロボットとして育成するのではなく、どこに行っても通用するようなビジネスマンや人格者として育成していく。この気持ちも大切なんじゃないかと思います。

若手の人材育成は、仕事のテクニック的なことより、精神的な面の育成のほうが重要かもしれません。

私が担当する新入社員の研修最終日。研修が終わったころには感極まったのか、お互い涙していました。ちょっと寂しい気持ちはありますが、、これから彼らが成長していく姿が楽しみです。

さて、なぜ彼らは研修で泣いてしまったのか…また別の機会でお話しできればと思います。