もし、いつの時代においても「若手人材を定着・育成させ、会社の戦力として成長させる原理原則」があるとしたらどうでしょうか。

休みを増やしたり、威圧すればすぐに辞めてしまう…などと神経を尖らせることなく、若手人材が辞めるどころか、逆にすくすくと成長していくレールを敷くことができたら…?

最近、「人材育成には仕組みが必要だ!」とやたら「仕組み化!仕組み!」などと言っている人事担当者がいます。何かインテリジェンスな人事がカッコイイ!みたいなノリの人事担当者も増えました。

確かに従業員数が増えていけば組織化や仕組化が必要なことがあるでしょう。しかし、我々「中小零細企業」においては、そんなことをする必要が無いんだよ…という事例を今回お伝えできればと思います。

会社を辞める理由の建前と本音

たしか4年前くらいだったと思います。20代半ばの中途採用した若者(A君としましょう)が、入社してから1年くらい経った時に突然、「辞めたい」と言って仕事場に来なくなってしまいました。

その若者を育てようと張り切っていた上司はショックだったようで「なんとか引き留めてくれないか?」と私に相談してきました。そこで私は彼(A君)の家を訪問し、近くのマクドナルドで説得にあたったわけです。

が、しかし…

聞く耳を一切もってくれなかった…。

私の説得も無力。いくら自分で良いこと言ってるなぁ…って思ったとしても、A君の耳の扉は固く閉ざされたまま。

そこで「何で辞めたいのか?」と尋ねたところ、

  • 朝は決まった時間に出勤しないといけないのに、帰りの時間はダラダラと過ごすのがイヤ
  • 残業が長すぎる
  • 次の休日は休めると思ったのに、急に休日出勤させられる
  • 上司が帰らなかったら自分も帰れないという風習がイヤだ
  • 給料の少ないし休みも少ない
  • 友達は自分より給料が多いし休み多い

まぁ、不満が出てくる出てくる。端的に言ってしまえば「今どきの若者だなぁ…」と、そんな状態でした。

それを、社長と、彼を可愛がっていた上司に報告したところ、社長は「そんなヤツはもうええ。ウチの会社には要らん!」と激高してしまい、「私の説得もダメだったか…」半ば諦めていました。

ところが…

上司が放った衝撃のひと言

でも直属の上司は違った…。

せっかく現場管理者へと育成するために、A君の素質に期待して自分の良き弟分としてとして教え込んできたのに、、せっかく現場管理者としてのベースができそうだったのに、、ここで辞められてはもったいないじゃないか!

本当に彼を可愛がっていたその上司は、そこである衝撃的な発言をしたのです。それは…

「オマエが辞めるんやったら俺も一緒に辞める!」

えぇーーーーーーーーーっ!!!

辞めたいと言い張っていたA君は動揺しました。そして、

「オマエが俺の弟して一緒に仕事ができないのなら、俺も今の仕事している意味ないしな…」

たしかそんな発言もしていました。

感動したのでしょうか。A君は突然泣き出し、本当は「なぜ辞めたいのか」というより、なぜ辞めなければなかったのか…本当の理由を話し出したのです。

それは、、付き合っていた彼女の間に新しいの命を宿した。だから今のままでは家族を養っていけないし、家族と一緒に過ごす時間も少なくなる。だから、家族のために違う仕事を選ぶ必要があるのではないか…。そう思いたったようです。

そこで上司は社長に直談判します。

社長!!今、僕には彼が必要です。ココまで仕事ができるよう、私が育成して必ずレベルアップさせますから、彼の給料を上げたってください!現場に支障が出ないよう休みはこちらでちゃんと調整しますので!

その上司の熱意に押された社長は、二つ返事で「よしゃ!わかった!」と了承してくれたのでした。

そして現在、そのA君は仕事に打ち込み、社内だけでなく、取引先などの周囲から気に入られ、会社の将来を担うであろうホープ人材へと成長しています。

もう一人の上司はと言うと…

先々月の話し。

また別の若手社員がいました。彼は(B君としましょう)入社2年目。これからだ!という時に突然「辞めさせてください」と言ってきました。B君もまた、4年前に辞めたいといったA君と同じ境遇にありました。お付き合いしていた彼女との間に、新しい命を宿したのです。

家族を養うための収入がもっと欲しい!入社2年目ですから収入も良くはありません。4年前のA君と同じような理由で辞めたい、、というか辞めざるを得ない状況になってしまったのです。

B君は新卒採用のときに、一番手で応募してくれ、彼の意気込みに対して私が見込んで採用した「期待していた人材」でした。ですが「辞めることになりました」と私の耳に入ってきた頃にはもう、次の仕事先が決まっていました。

実はB君、、それ以前にシグナルを発していたのです。B君は職人畑だったのですが、現場管理者になりたい!と直属の上司に訴えていたのです。(※現場管理者は仕事がキツイですが、その分賃金が良いのです)

しかし、直属の上司は「オマエなんかに出来るワケがないやろ!無理無理!」と一蹴されていたのです。

B君にとって今の会社は、仲間もできたしやりがいも見出していました。しかし、唯一会社で働き続けることができない理由が「家族を養えるくらいの収入」だったのです。

どうしたら今の会社で収入を上げることができるか…直属の上司に相談するも「オマエの今のレベルでは無理無理」と聞く耳も持ってくれなかったそうです。

社内ではA君の復活劇がちょっとした伝説になっている中、B君は「辞めます」と言った時の直属の上司の対応に幻滅し「もう完全に辞める決心がついた…」と後になって私に話してくれました。

部下を活かすも殺すも…

若手人材だけに限りませんが、本当は、できればこの会社に居続けたい…と思っていたのにもかかわらず、辞めなければいけない、どうしたらいいのかわからない。そんな葛藤を抱く時期がきます。

そんな時、上司部下の上辺の付き合いだけでなく、家族のように、いや、それ以上に深い信頼関係を持っていたらどうでしょうか。

もし、直属の先輩や上司が「俺とお前は兄弟みたいなもん。一心同体だ!」と言ってくれたら、、

もし、これだけのレベルの仕事ができるように鍛えるから、これだけ賃金を上げてやってください!そう経営者に直談判できる上司がいたら、、

彼らはその会社において、これからどれだけの戦力になってくれるでしょうか。

若手人材がその会社に定着し、成長していく過程においては、本人の意思力も当然必要です。ですが、若手人材を生かすも殺すも、その上にいる先輩や上司の育成力、というより「部下を育て上げるという情熱」が必要です。

つまり、愛情というか、心と心が繋がり合える環境と言いましょうか。

ですが、あまりにも育成者としての責任感や情熱・愛情がないような指導者が多いように思えます。

「辞める」という発言が出てくることは絶対にあってはならない!それは上司として恥であり失格だ!

A君の直属の上司のように、部下の育成に対して情熱や愛情をもつことがかなり重要なんじゃないでしょうか。

育成する立場にある人と、若者との間には隔たりもあるでしょう。価値観も違い、とっつきにくい部分もあります。

しかし、上司部下という枠組みを超え、愛情を持って接することができれば、また若者も、先輩や上司に身を預けるようになります。前出のA君は、今では直属の上司に従順になり、「あの人の仕事が終わるまで自分も終わりません!」と上司のフォローに徹底しています。

仕組み化だ!と、そればかりが先行し、冷徹で互いの肌の温度がわからないような社内環境では、若手人材の長所も引き出せないし定着化させるのも難しいかもしれません。

それよりも、いつの時代でも「心と心の繋がり」こそが、人材を会社に定着させ、成長させていくための秘訣の1つと言えるでしょう。

あなたは部下のことを「愛する家族」のように慕い、接することはできますか?